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*二十七 最初で最後の

last update Last Updated: 2025-10-15 18:00:19

 その晩は、三人が住まう屋敷の広間で大宴会が開かれた。ご馳走や酒など宴会の用意はすべて爺様が手配してくれ、楓たちは上座で整えられた会場で皆が杯を交わし、笑い合う様子を見守っているばかりだ。

 集落ごとのおさなどが、酌をしに次々と席に訪れて楓たちに酒を勧めていく。二十歳を迎えているので、一応飲酒できる年齢ではあるため、楓もすすめられるままに杯を受け、ひと口、ふたくちほど口をつけている。それでも、頬が火照るほどに酔いが回ってしまうくらいに、訪れる者が多いのもあるのだろう。

「本当に、神子様には感謝してもし切れませぬ。禍の病で妖力を失う者が後を絶たず、村は消滅するかという瀬戸際でしたので」

「我が町も、お陰様をもって安寧を取り戻しつつあります。ワシからも礼を言わせてください」

 そう言いながら盃に酒を注がれれば、楓は弱く笑ってそれを口にする。感謝の想いの込められた酒は確かに格別に美味いと思うが、いささか飲みすぎている気もする。

 ちらりと隣を窺うと、顔色一つ変えずに、勧められるままに杯を空けていく松葉と常盤がおり、どちらもにこやかに客と談笑している。二人とも、こういう場に慣れているのだろう。仕事の上でも、年齢の上でも、楓よりうんと馴染んで見えし、実際二人は楓より五つも上だ。

 それならば当然だろうか――そう、ぼんやりと考えていると、思考のように視界も揺らいでくる。まるで、水の中にいるようで、なんだか座っている足元もおぼつかないし、体もふわふわする。

 一体何が……と、思っていたその時、「楓さま!!」と、誰かが叫ぶように呼び、楓の体が抱き留められた。

「大事ねえか、楓さま」

「我々がわかりますか、楓さま」

 心配そうな顔をした松葉と常盤に交互に尋ねられ、楓は弱くうなずく。その様子にふたりは安堵したように息を吐いたが、表情は硬いままだ。

 何が起きたのだと尋ねるより早く、楓を抱えた松葉が立ち上がり、そのあとに常盤が続く。

「楓さまがお疲れのようだから、俺らで運んでくる」

「ですので、会はこのままで。皆さん御歓談していてください」

 そう、二人が大きな声で述べると、騒めき

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